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2024.04.12 day

身ひとつで

こんにちは。I.D.Worksスタッフの髙橋です。
ひしめき合う乙女椿が眩しい春の日に、木地師かねこさんのアトリエに伺わせていただきました。
いくつかの窓から差す光がそれぞれのあたたかさをもって歓迎してくれているようで、ゆっくりと深呼吸をしました。

築70年を越える小さな平屋をよみがえらせた空間は作業工程に沿って段階的にゾーニングされています。
とりわけ主たる作業場周りは道具と動線が整えられ、さながら操縦席のようです。

かねこさんが制作に選ぶ樹種はセンダン、サクラ、カエデ、エゴ、クリなど。
材木屋さんから仕入れたり、市内外の森へ趣き切りだしたものを使い、個性にあわせて大内人形やうつわ、ランプシェードなどへと削りだしていきます。
回転する旋盤に設置した木の塊へ刃を当てると強い香りとともに木粉が舞い上がり、足元は瞬く間に木屑の山になりました。

生み出されるのは変わりゆく暮らしに馴染む使いやすいかたち。
曲線や納まりには際の美学が、木目や染めの異なる表情には自然への敬意が込められています。
それらが纏う独特の揺らぎについて、かねこさんは「工業的なもののなかに感じる手仕事」という表現をされていました。作業に集中しつつも重心や呼吸、所作を研ぎ澄ませていく感覚は“手で考える”身体性に近いのかもしれません。

その面白さも難しさもひっくるめて、喜びだけではないものづくりの責任が芯となっているように感じられました。そしてそれは脈々と継がれてきた技や知恵、街の風景、自然の移り変わり、日々をとりまくあらゆるものをじっと観察し考えを深めているようにも見えます。

溢れる情報に酔ってしまいそうになる世界で、心が動く方へ進み、選び続けること。
静かな気概に触れると今を生きる実感が湧いてきます。

制作の原動力は「つくってみたい」「かたちにできるかも」という胸を鳴らす気持ちと、お互いの領域に心を寄せる姿勢。
できることを身につけながら、手を取り合うゆるやかな関わり合いを大切にする先には世界を広げていく愉しさが待っているように思います。
それはきっと自分の時間を生きることにも繋がっているのだろうなと、そんなことを考える機会になりました。